09.整頓
要るモノを使いやすいようにきちんと置き、誰でも分かるように明示すること
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科学的P4S活動における「科学的整頓(Scientific Seiton)」の実践について
「整理(要らないモノを捨てる)」が終わった後、次に取り組むのが「科学的整頓」です。 これまでの「使いやすそうだから」「昔からこう置いている」という個人の経験則ではなく、データ、人間工学、認知心理学、物理学などの科学的根拠に基づいて、最も安全で効率的なモノの置き方を設計します。
1. なぜ、「科学的整頓」が必要なのか(必要性)
一般的な整頓の定義は「要るモノを使いやすいようにきちんと置き、誰でも分かるように明示すること」ですが、本活動では以下の「科学的視点(リスク低減と効率化)」を最優先します。
① 医療リスク(ヒューマンエラー)の低減 人間はミスをする生き物です。類似した薬剤や機器が近くにあると、取り違えミスが発生します。人間の認知特性(見間違いやすさ)や身体特性(届きにくさ)を考慮した配置にすることで、「間違えようのない環境」を作り、患者さんと自分たちの身を守ります。
② 災害リスクへの備え 病院には地震や火災のリスクがあります。重いモノを高い所に置くと落下して怪我をしたり、避難経路を塞いだりします。科学的整頓では、物理学的な視点で災害時の安全性を確保します。
③ 脳と身体の負担軽減(効率化) 「探す」「迷う」「無理な姿勢で取る」という行為は、ムダな時間であるだけでなく、職員の疲労(ストレス)の原因となります。人間工学に基づいて「自然に手が届く」「一目で分かる」配置にすることで、認知的な負担を減らし、業務スピードを向上させます。
2. 科学的整頓の「3ステップ」
科学的整頓は、闇雲に並べ替えるのではなく、以下の順序で決定します。
1. 置き場所を決める(どこに置くか):動線や使用頻度に基づく決定。
2. 置き方を決める(どう置くか):取り出しやすさ、安全性に基づく決定。
3. 表示方法を決める(どう明示するか):認知しやすさに基づく決定。
3. 実践のための科学的手法:ビデオによる「自己客体視」
自分たちの動きにムダがないか、どこにリスクがあるかを知るために、最も推奨される科学的手法がビデオ撮影です。
• 方法: 実際の作業風景(ナースステーション、処置室、検査室など)をスマートフォン等で撮影し、チームで観察します。自分たちの姿を客観的に見ることで、普段気づかない問題点を発見できます(自己客体視)。
• 分析の着眼点: 以下の項目をチェックし、配置を変更します。
o 動線: 行ったり来たりしていないか(モノの配置が悪い証拠)。
o 探索行動: キョロキョロ探していないか、置くときに迷っていないか。
o 作業姿勢: しゃがむ、背伸びをするなど、無理な姿勢をとっていないか。
o 不要な操作: 頻繁に扉を開け閉めしていないか(扉を外す検討)。
4. 科学的根拠に基づいた「具体的ルール」
経験や勘ではなく、学問的裏付けのある以下のルールを適用します。
A. 物理学・人間工学に基づく配置ルール
• 「重いモノは下」の原則(物理学) 重心を安定させ、地震時の落下防止と取り出し時の腰への負担を軽減するため、重いモノは必ず下の棚へ置きます。
• 棚・キャビネットの上にモノを置かない(アフォーダンス理論・割れ窓理論) 「平らな面があるとモノを置きたくなる」という人間の心理(アフォーダンス)があります。これを放置すると「割れ窓理論」によりなし崩し的にモノが増え、清掃困難や落下事故を招きます。物理的に置けないようにするか、ルールで徹底禁止します。
• ゴールデンゾーンの活用(人間工学) 使用頻度の高いモノは、腰から目線の高さ(自然に手が届く範囲)に集中させます。低い位置や高い位置には、使用頻度の低いモノを配置します。
B. 認知心理学に基づく表示(ラベリング)ルール
• 情報の統一(認知負荷の軽減) ラベルのフォント、色、サイズ、貼る位置を統一します。バラバラな表示は脳に認知的負荷(ストレス)をかけ、判断を遅らせます。
• 3定(定位・定品・定量)の徹底 「どこに(定位)」「何を(定品)」「いくつ(定量)」置くかを表示します。特に定量管理は、過剰在庫を防ぐために重要です。
• 類似品の隔離 似た外見の薬剤や機器は、あえて離して置くか、色で明確に区別し、人間の「思い込みエラー」を防ぎます。
C. 衛生・安全管理のルール
• 床への直置き禁止(衛生学) 床はホコリや微生物が落下・堆積する場所です。直置きは不潔であるだけでなく、つまずき事故の原因となり、清掃の妨げにもなります。
• 配線の処理 床を這う配線は、転倒リスクやデータ消失リスク(電源切断)を高め、ホコリの温床となります。必ず束ねて床につかないように浮かせる処理をします。
• 机の上はクリアに(セキュリティ) 業務終了時、机の上には電話とPC以外何もない状態にします。情報漏洩や紛失を防ぎ、翌日の業務開始をスムーズにします。
5. 科学的整頓のゴール
科学的整頓が完了した状態とは、単に見た目がきれいな状態ではありません。 「新人や応援に来たスタッフでも、説明なしで『必要なモノが、すぐに取り出せ、迷わず元の場所に戻せる』状態」です。
まずは、よく使う棚の一段から、ビデオを撮って「この配置は本当に安全か?効率的か?」を科学的に検証することから始めましょう。