KAWANO Ryutaro

医療事故調査について

2022年〇月△日、A大学病院の集中治療部で、手術を終えた患者に対し、血液や髄液の量を調節する機器の操作により、必要以上に血液などが排出されるという医療事故が発生したとして、記者会見が行われました。

まず、科学的因果関係を明らかにすること

事故調査の目的は再発防止です。このため、科学的因果関係を明らかにして、効果的な対策を実行する必要があります。
まず、事実の把握です。
医療に起因する事故を調査することになりますから、医師が医学的因果関係を明らかにする業務を行うことになります。
ただし、今回の事例では、操作上の問題と考えられますので、医師では限界があると考えられます。特に、ヒューマンエラーが関係したと考えられる場合は、多くの場合、判断が伴いますから、心理学やヒューマンファクター工学の分野から因果関係を明らかにする必要があると考えられます。
さらに、医療機器が関係している場合は、工学的因果関係、物理学的因果関係も考えられますので、工学系の専門家が調査に参加する必要があります。

事故調査には知識、技術、態度などが必要

事故調査には、実施できるだけの知識、技術、態度が必要です。
医療関係の事故なので医療の知識があればいいと考えがちですが、医療の知識だけでは限界があります。
特に、ヒューマンエラーの分析には、エラー行動には判断が伴いますので、心理学や、主に航空事故調査の分野で次第に重視され、体系づけが行われているヒューマンファクター工学の知見が必要です。
事故調査には実践的な技術も必要ですから、ぜひ、これらの能力を備えた関係者が調査メンバーに参加していただきたいと思います。
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事故調査報告書には、調査員の考え方が反映される

事故調査は事故調査報告書にまとめられ、終了します。この時、調査員の考え方が報告書に反映されます。例えば、「ヒューマンエラーは不注意で起こる」と考えている調査員が報告書をまとめると、内容は不注意が原因となる可能性があります。そして、調査の目的である再発防止策は「注意せよ」になってしまうのです。
事故調査報告書の書き方については、ICAO(国際民間航空機関)から出版されている航空機事故調査マニュアル(Manual of  Aircraft Accident and Incident Investigation)が参考になると思います。航空と医療は違う、という声が聞こえそうですが、事故調査の基本的考え方は同じです。私は自信を持って、参考になる資料として推奨できます。

「死亡事例でなくても公表」は高く評価できる

医療のリスク低減のために医療事故調査制度が作られましたが、これは「医療に起因する死亡事例」が対象となっています。しかし、今回のA大学病院の公表は再発防止のために行われたものと考えられ、高く評価できます。調査が終了したら、報告書も公表してもらえると経験の共有化が期待され、医療安全の向上に貢献すると考えられます。
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