KAWANO Ryutaro

大阪公立大学大学院 看護学研究科 人材管理論で講義

2023年6月3日土曜日と6月10日土曜日に、大阪公立大学大学院看護学研究科で、人材管理論の講義をしました。私の担当は第11回から第15回までで、企業の社会的責任とその背景や企業⽂化、ヒューマンエラーメカニズムや行動モデル、管理者のリーダーシップ、そして、まだ私自身が勉強中の「社会的共通資本と医療」について話をしました。

人材管理論の授業概要は以下の通りです。

「看護のリーダーにとって、組織の成果を最大化するためには、個々の組織成員へのこまやかな配慮をし、組織成員のパフォーマンスを向上できるようなしくみをつくる組織全体への働きかけが不可欠であるとともに、組織が社会的責任を果たすための管理者の役割を理解しておく必要がある。
本科目ではこれまでの人的資源管理や組織行動学に関する理論を概観し、基礎的な知識を得るとともに、変革に向けてのリーダーの役割、組織開発の手法を理解し、自組織の課題解決への道筋を立てることを学習する。
また、経営に関する倫理的な意思決定や、組織の倫理風土の改善のための基本的知識を習得するとともに、事例検討を通じて、医療介護の場における複合的な倫理的課題について生命倫理、看護倫理、経営倫理の視点から思考できる能力を身に着けることを目指す。(講義/2単位)」

授業での訴求ポイント
下記の項目は当初の訴求ポイントでした。

・仕事は一人ではできない。
・組織目的は何かを明確にすることが重要である。
・何のために働くのかを理解しなければならない。
・メンバーのパフォーマンスを向上させることしかない。
・エラーをしようと思っているメンバーはいない。
・不祥事をしたいと思っているメンバーはいない。
・人は知らないことはできない。自分も知らないことはできない。
・すべてはリーダーの責任である。
・リーダーは自己利益を優先してはならない。

まだ、私自身が勉強中でしたが、講義として初めて「社会的共通資本と医療」について話をしました。

最近、日本の医療制度と外国、特に米国の医療制度の違いがとても気になり始め、いろいろ本を読み始めました。そこで出会ったのが、医療資源は限られているので市場原理主義経済ではうまく行かない、という考えでした。本来、講義は自分自身が十分勉強をして、自分で考え方を整理して行うべきですが、医療の現実を見て、このままでは日本の医療制度が崩壊してしまうのでないか、と危機感を持ったのです。そこで、上記の訴求ポイントについて予定の講義内容を話し、時間を作って説明しました。
大学院の学生の皆さんには、私の不完全な話に熱心に耳を傾けていただきました。

医療従事者の意識が医療を支える

社会的共通資本(Social Common Capital)とは、経済学者・宇沢弘文(1928-2014年)の提唱した概念で、「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」のことである。
社会的共通資本には、大気、海洋、森林、河川、水、土壌などの「自然環境」、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの「社会的インフラストラクチャー」、教育、医療、司法、金融、文化などの「制度資本」という3つのカテゴリーが含まれる。
宇沢弘文『社会的共通資本』岩波書店、2000年

社会的共通資本として、「医療」を例に挙げよう。医療資源には限界があり、無制限に供給することはできない。そこで、どこにどのように配分するかが問題となる。宇沢によれば、こうした医療の配分は、専門家集団が、医学的知見に基づき、職業倫理に沿って判断し、国民医療費を決定すべきであるとしている。
https://ideasforgood.jp/glossary/social-common-capital/

上記の説明を参考にすると、市場原理主義という「儲けることを人生最大の目的として、倫理的、社会的、人間的な営為を軽んずる生きざまを良しとする考え方」ではなく、医療の専門家が高いモラルで医療を維持するという考え方が重要であることが分かります。つまり、日本の医療をうまく運営するには、医療従事者の意識改革こそ重要であるということが分かります。
「そんなことはうまく行かないよ」といった醒めた批判に負けることなく、この考え方を推し進めたいと思っています。
まとまっていない話を聴いていただき、ありがとうございました。
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