株式会社 安全推進研究所
代表取締役所長
自治医科大学名誉教授 河野龍太郎
一般社団法人日本透析医学会の調査によると、施設調査票に基づく 2020年末の慢性透析療法を受けている患者総数は 347,671人と非常に多い。透析医療におけるヒューマンエラーに起因するインシデント事例も医療安全機能評価機構のデータベースにたくさん報告されている。
一方、日本の2021年8月1日現在の人口は125,633,000人であり、65歳以上の人口は28.8%を占めている。高齢化により、あらゆる医療機関に問題が生じている。なかでも患者の認知症による予測できない行動や転倒転落の問題が次第に増加している。透析医療においても同じように、今後自己抜針や転倒転落の問題が増えてくると予想される。解決は非常にむずかしいであろう。
血液浄化療法では血液を体外で循環させ、血液中の病因や関連した物質を除去するため、システム的に見ると患者の体の中にある臓器の一部が体外に出ている状態となる。そのため浄化装置の故障や回路のトラブルは患者の安全を直接脅かすものとなる。血液浄化療法中に血液回路のカテーテルが外れて失血した事例や、持続的血液透析濾過の際に誤って血漿交換用の血液浄化器を使用した事例などが報告されている。
報告されたインシデント事例を見ると、医療者側の努力によりトラブルやリスクを低減できるものと、解決の困難なものに分けられる。解決の困難な問題の一つが上記の高齢患者の問題である。一方、医療者側の問題の多くはヒューマンエラーに起因するものが多い。リスクマネジメントの観点からは、リスク低減のためにできることから実施するという具体的対策が重要である。
特に、ヒューマンエラー低減のためには、エラーは不注意で発生するという古典的な考え方では限界がある。まず、人間側の要因と環境側の要因の相互作用の結果として引き起こされた行動がヒューマンエラーであるといったメカニズムを理解することである。そして、職場をエラー誘発要因の少ない環境にしたり仕事のやり方を改善し、また、エラー誘発環境に置かれても、やられないようにエラー耐性、すなわち、自分の身は自分で守るための具体的方法を実行することが重要である。。